69

村上龍の『69』を読み終えた。

ポップで乱暴でセンチメンタルな小説だった。

おそらくこれほど60年代という時代が育み、創作の原動力になっている作家って村上龍以外にいないんじゃないかぁ。

『69』は混沌とした社会のなかをそこに埋没してしまうことなく生き抜いた人間にしか書けない小説だと思う。小説家はだいたい内省的で、時代のうねりのなか逞しく波に乗ってるというよりは、そうした渦中には直接関与せずに、冷静な目で外から眺めるようなタイプの人が多いイメージがある。

そして村上龍はこうしたタイプの小説家と対極に位置している。

おそらく村上龍自身がモデルとなっている『69』の主人公ケンは、社会的な状況というものに呑み込まれても黙って、メソメソなげくようなタイプではない。ベトナム戦争学生運動で揺れ動く社会のなかで自分が信じるもの(学校一の美人)を手に入れようとあらゆるものを利用する。あらゆるイデオロギーがこんがらがりながら自らの正当性を主張する時代で、ケンが志向するものは極めてシンプルだ。

純粋でありながら残酷なほど鋭利でアイロニカルな態度を社会に対して向ける主人公の眼差しによってあらゆるイデオロギーは空虚で滑稽に見えてくる。難解な理論や思想が、美少女と付き合うことという至極単純なことの前にあっけなく崩れ落ちてしまう様子は、どうしようもなく笑いを誘う。

いくらしゃちほこばって小難しい理屈を説いても、ケンみたいな青春を送ってみたかったなぁという気持ちは治らないし、自分の平凡で退屈な学生時代を鑑みると遣る瀬無い。あー学校一の美女とランデブーしたい人生でありました。

 

終わり。