読む

大学生活の総決算といえば、一応卒業論文ということになる。一応と書いたのは、もはや多くの学生にとって、卒業論文は、レポートの延長線上にある1つの課題に過ぎず、卒業論文に正面から取り組もうなんて学生は数えるほどにしか残っていないからだ。他ただでさえサークル活動やバイトで学生は忙しいのに、四年生になるとさらに就職活動をしなければならない。彼らにとって、卒業論文に腰を据えて取り組もうなんて眠たいことは言ってられないのだ。就職活動という波に完全に乗り遅れた僕は、同級生から世捨て人とか、御曹司だとか、お寺の跡取りだとか噂されながら、しこしこと卒業論文を書いていた(一応断っておくと、僕はそのどれでもないです)。

すでにサークルを引退し、就職活動もしていなかった僕は、同級生よりも遥かに時間的な余裕があった。当然、その時間を使っていい論文を書こうと思っていた。そんなこんなで、心構えだけはご立派だったわけだが、進捗状況はというと夏休みが終わる頃になってもほとんど何も書いておらず、提出期限も残すとこと3か月といった状況であった。

結果からいうと、その残された数ヶ月も有意義に使うことはできず、多くの学生がそうであったように、残り1か月で、締めきりに追われるように書き上げて、なんとか提出することができた。もちろん、そんなもんだから、僕が当初思い浮かべていたレベルには、到底およばない、情けない出来上がりとなった。

自戒を込めて言うのだが、文学部の学生が文学作品を題材として扱う際に重要なことは、とにかく扱う作品(邦訳でもいいので)を徹底的に読み込むことである。僕には、圧倒的に、作品の読み込みが足りなかった。研究論文をインターネットで適当に探し、他人の論文を読み漁っているうちに、自分が作品に対して抱いている考えを見失ってしまい、何を書けばよいのか全くわからなくなってしまった。

多くの学生が指導教官に言われること、それは、先行研究を探せということだろう。たただし、そこには、作品と正面から向き合うことが前提にある。先行研究は、ある作品に対する視点や論点を与えてくれる点でもちろん読むべきものであるが、論文を執筆する上で最も重要なことは、一語一句忽せにせずに作品を読むことだ。そしてそれを通して、書きたいことを自分なりに作り上げること、遠回りに感じるかもしれないがそれなくしては、いいものは書けないんじゃないかな。というわけで、卒業論文を書く前に読んでいればよかったという、文学研究の入門書とも言える本を挙げて終わります。

 

批評理論入門―『フランケンシュタイン』解剖講義 (中公新書)

批評理論入門―『フランケンシュタイン』解剖講義 (中公新書)

 

 

メアリー・シェリーの小説『フランケンシュタイン』という作品を通して、様々な批評理論を紹介しているとても勉強になる一冊。一年生からでも、比較的スイスイと読みすすめることができるほど平易な文体で描かれている。卒業論文に取り組む前に一読することをお勧めします。